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もう一つの「KAGEROU」
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1 [蜻蛉]
芸能人としての自分に限界を感じたある青年。
そこに黒尽くめの服を着た編集者を名乗る男から声がかかる。
本を出したくはないか?
作家として人生をやり直してみないか?
−−でも僕には文才がありません。
才能とは持って生まれるものでも努力で育まれるものでもない。
才能はね、作れるんだよ。
虚構を作り出す出版の世界では、才能すら人の手で作り出せるんだ。
−−どうやって? 僕に作品など書けるわけがない。
. . 俳優は書かれたものを覚えればいいけど、自分で書くなんてとても。
本当に君が作品を書く必要はない。
近年、受賞者が出ていない文学賞がある。そこに名前だけ貸してくれ。
受賞発表までは君の本名を。受賞してからは君の芸名を。
謎の契約を結んだ2人のシナリオはトントン拍子に進んでいく。
前評判だけで飛ぶように売れる本。
出版社には金が、
青年にはベストセラー作家の名声が授けられた。
しかしこの企みはここからが本番だったのだ。
偽りの「才能」はやがて出来レースの噂を呼び 駄作の烙印を押され、
一時のKAGEROUのような名声に酔っていた青年は一気に地に落とされる。
彼の手には何も残らなかった。
俳優としての人生も。
作家としての地位も。
ただ汚名と後悔だけが心を蝕み続ける。
あたりに不気味な高笑いが響く。
一体、黒尽くめの男は本当の編集者だったのか、それとも悪魔だったのか。
確かなことは唯一つ。
彼が貶めるのに成功したもの、人間世界の美しい創造物の一つ、
その名は「文学」・・・。
01/03 10:10
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