中原中也-初期詩篇
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5.[名無しさん] 〜春の夜〜
燻銀(いぶしぎん)なる窓枠の中になごやかに
一枝の花、桃色の花。
月光うけて失神し
庭の土面(つちも)は附黒子(つけぼくろ)。
あゝこともなしこともなし
樹々よはにかみ立ちまはれ。
このすゞろなる物の音に
希望はあらず、さてはまた、懺悔もあらず。
山虔しき(つつしき)木工のみ、
夢の裡なる(うちなる)隊商のその足竝もほのみゆれ。
窓の中にはさはやかの、おぼろかの
砂の色せる絹衣。
かろびき胸のピアノ鳴り
祖先はあらず、親も消ぬ。
埋みし犬の何処(いづく)にか、
蕃紅花色(さふらんいろ)に湧きいづる
春の夜や。 09/28 18:51 au
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