中原中也-初期詩篇
15.[名無しさん] 〜逝く夏の歌〜<br><br>並木の梢が深く息を吸つて、<br>空は高く高く、それを見てゐた。<br>日の照る砂地に落ちてゐた硝子を、<br>歩み来た旅人は周章てて（あわてて）見付けた。<br><br>山の端は、澄んで澄んで、<br>金魚や娘の口の中を清くする。<br>飛んでくるあの飛行機には、<br>昨日私が昆虫の涙を塗つておゐた。<br><br>風はリボンを空に送り、<br>私は甞て（かつて）陥落した海のことを<br>その浪のことを語らうと思ふ。<br><br>騎兵聯隊や上肢の運動や、<br>下級官吏の赤靴のことや、<br>山沿いの道を乗手もなく行く<br>自転車のことを語らうと思ふ。 09/28 18:55 au
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